大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和45年(行ツ)117号 判決

東京都文京区大塚五丁目四〇番一八号

上告人

株式会社日強製作所

右代表者代表取締役

高橋省吾

右訴訟代理人弁護士

岡部勇二

被上告人

右代表者法務大臣

植木庚子郎

右当事者間の東京高等裁判所昭和四五年(行コ)第一二号法人税課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四五年九月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡部勇二の上告理由について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が、本件再更正および賦課決定を行なつた税務署長には故意過失があつたとは認められないから、右の課税処分が違法かどうか。また、上告人主張の弁護士費用等が国家賠償法により賠償を求めることの許される損害かどうかを判断するまでもなく、上告人の本訴請求は理由がなく、棄却すべきであるとした判断は、原判決の判示関係規定およびその確定した事実関係に徴すれば、正当として首肯することができる。

所論は、ひつきよう、原判示にそわない事実および国家賠償法一条に関する独自の見解を前提として、原判決に所論の違法・違憲があると主張するものであり、また、所論引用の判例は本件とは事案を異にし、適切ではない。所論は、すべて理由がなく、採用することはできない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

(昭和四五年(行ツ)第一一七号 上告人 株式会社日強製作所)

上告代理人岡部勇二の上告理由

原判決には、事実を誤認し、法令の解釈適用を誤り、もつて、憲法三〇条に違反した憲法違反の違法がある、とともに、御庁の判例に相反する判断をなした違法があるから、原判決は破棄され、上告人の本件請求は認容されなければならない。

一、原判決は、本訴請求を失当として排斥すべき理由は第一審判決と同一であるとしているが、その理由は、要するに小石川税務署長(以下単に小石川署長という。)は、旧法人税法施行規則(以下旧規則という。)に従つて本件更正処分したものであり、現に、その後、福岡および大阪各高裁が相反する判断をした位であるから、右署長が「旧規則を有効なものと認め、右事実関係に照合して前記再更正および賦課決定を行つたことは、法令の効力について独自の判断権がなく、むしろ、その執行を任務とする同署長としては、当然の措置であつて故意はもとより過失があつたものとは到底認められない。」と判断しているが、右は誠に憲法三〇条に違反する憲法違背の判断である。

二、憲法三〇条は、法律による納税義務を定めており、上告人は法律によつて適法な申告納税をしたのである。

しかるに更正処分および自力執行の権限を有する小石川署長は、その処分につき責任がないとの原判決の判断は誠に違法である。

しかして、自力執行権のある小石川署長は違法な本件更正処分を積極的にしたのである。

のみならず、東京国税局長は、違法な審査決定をなして、上告人をして強制的に、本件更正処分による法人税を納税せしめたのである。

してみると、小石川署長がその職務の執行につき故意過失がないから責任がなく、従つて国が責任がないというのは誠におかしな論理である。

三、納税義務は国民の国に対する義務であつて、上告人は、本件請求で国の損害賠償責任を問うているのであつて小石川署長に対し損害賠償を請求しているのでない。

国民が法人税法を正当かつ適法に解釈して申告納税をしているのに、小石川署長が違法に解釈し、積極的に違法な更正処分をした本件においては、国が右税務署長に故意又は重過失ありとして、損害賠償責任を負わねばならないのは当然の事理である。

四、しかして、税務署長が違法な更正処分をなした場合、右処分の取消のために要した弁護士および税理士報酬につき、国が損害賠償責任のあることはすでに御庁昭和四四年二月二七日第一小法廷判決(判例集二三巻二号四四一頁)および昭和四四年二月二七日第一小法廷判決(裁判集九四巻五四三頁、法曹時報昭和四四年九月号一三九頁)の判例があるのである。

してみると、原判決は、御庁の判例違反の違法な裁判であるから、この点においても破棄されなければならない。

五、原判決は、同族会社の使用人兼務役員の賞与の損金不算入の旧規則の根本的建前は新法人税法にも、そのまま承継されているから、本件更正処分は違法でないと判示しているが、右は誤りであつて誠に違法である。

右建前を規定した新法人税法二条一〇号の同族会社の規定は、本件上告代理人が、衆議院の平林剛議員に対して、本件違法更正処分につき、質疑して下さるよう上申したので、右平林議員が同院大蔵委員会において、昭和四三年一二月二〇日、昭和四四年二月一七日、同年六月一三日および同年一〇月二八日の四回にわたり内閣に対し質疑をなし、また、昭和四四年一月二七日内閣に対し「法人税法における役員賞与の損金不算入に関する質問主意書」を提出した結果、終に、前国会において、昭和四五年法律第三七号(四五、五、一公布)をもつて改正されたのである(甲第一五号ないし第十七号)

しかして、新法人税法二条一〇号の同族会社の役員賞与損金不算入の規定が僅か五年で改正されたことは、右条項が憲法違反の違法な法律であるからであつて、原判決の判断は明白に誤りである。

六、本件上告人に対する新法人税法下の昭和四〇事業年度分に対する小石川署長の違法更正処分については、東京地方裁判所において、同庁昭和四二年(行ウ)第一二九号法人税法課税処分取消請求事件をもつて昭和四五年七月七日に本件上告人勝訴の判決を得たのである(判例時報昭和四五年一一月一一日号四〇頁)。

七、国は、徴税のため費用を特に用意しているのであつて、被上告人は、本件損害賠償費用を、右徴収費用から支出できるよう、すでに用意しているのであるから、本件請求は他の一般行政事件に対する請求とは、非常に異つているものである。

従つて、被上告人は、本来ならば、本件請求を当然に認諾しなければならないものであると認める。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例